就職氷河期世代の就職観と「簡単には辞められない」心理

私の回顧録

私は2004年に地方国立大学の大学院を修了し、現在の会社に就職できた。時期的に見て「就職氷河期世代」に該当すると思われる。
当時の就職環境は極めて厳しく、多くの学生が内定を得られずに卒業後も職探しを続けていた。
実際、私の友人の中には40社以上応募してようやく内定を得た者もいた。

地方はさらに深刻であったと思う。地方は産業そのものが乏しいので、就職先は公務員、教員、銀行といった「収入が安定しており生活が保障される職種」に集中していた。

①「安定」が何よりも優先された時代

2000年代初頭は、小泉改革の影響もあり、「派遣社員の拡大」「能力主義の導入」「終身雇用の崩壊」といった話題がテレビや新聞で取り沙汰されていた。
加えて、「リストラ」という言葉が世間一般に浸透し、社会全体に不安定さが広がっていた時代であったと思う。

当時は就職活動自体が非常に困難であり、仮に内定を得たとしても、その後には長時間労働やサービス残業、そして成果が上がらなければリストラといった現実が待ち受けていた。まさに暗い雰囲気が社会全体を覆っていた。

そんな時代背景の中で、公務員は数少ない「安定した職業」として非常に高い人気を誇っていた。例えば県庁の倍率は40〜60倍、市役所にいたっては若干名の採用枠に対し数百名が応募するといった状況が当たり前であった。

私も「やりたいこと」より「安定」を優先し、公務員を第一志望として就職活動を行っていた。
漠然とした社会の不安の中で、私の中には「安定した職に就けなければ人生真っ暗」といった強迫観念に近い思いがあったと思う。

民間企業の採用においては、「新卒」という条件が極めて重視されていた。既卒者が正社員として採用されるケースはごくわずかであり、新卒カードを逃した者にとって、再チャレンジの道は極めて狭かった。事実、当時は新卒資格を保持するために留年を選択する学生や、就職を先延ばしにするために大学院に進学する者も少なくなかった。

一方で、公務員試験は年齢制限こそあったが「新卒であること」は問われなかった。そのため、既卒であっても多くの人が浪人して受験することにより、倍率が跳ね上がり、かなりの狭き門だったと思う。

今では考えにくいかもしれないが、教員も非常に人気のある就職先であった。何年も試験に挑戦し続け、ようやく教壇に立ったという人も少なくなかったし、非常勤のまま年齢制限に達して夢を断念した人も数多く存在した。

②「自己責任」の時代と、強い就職プレッシャー

この時代には「自己責任」という言葉が社会的に流行していた。「就職できないのは努力不足」「非正規なのは甘え」といった論調が、メディアや世間から当然のように語られていた。

この「自己責任」という言葉は、私にとって嫌いな言葉で、非常に冷たく無責任な言葉であると感じている。すべてを個人の努力不足として片づける風潮が蔓延しており、何とも言えない嫌な世の中であったと思う。

私もまた、公務員を第一志望にして県庁や地方自治体の採用試験を受けたが、最終段階で不合格となった。しかし、幸運にも現在の電力会社に内定を得ることができた。

正直に言えば、これは完全に「運」であると思っている。なぜなら、同期には旧帝大や早慶上智といった高学歴の学生が多く在籍し、新入社員研修ではプレゼン能力やコミュニケーション能力に長けた者ばかりで、すごい人がいるものだと感心したのはいい思い出だ。その中で自分が採用されたのは、本当に何かの間違いだったのではないかと思うほどであった。

本当にマグレで入れたと思う。もし、あの時、今の職場に就職できていなければと思うとゾッとする。

③「辞めたいのに辞められない」心理

昨今では「転職」や「FIRE(早期リタイア)」といった選択肢がメディアやSNSで頻繁に取り上げられ、特に40歳以下の世代にとっては、もはや普通のキャリア選択肢になっていると感じる。

一方で、私たち就職氷河期世代の多くは、転職や退職に対して非常に慎重であると思う。実際、私も「転職したい」「FIREを目指したい」と考えたことはある。しかし、いざ行動に移そうとすると、安定を失う恐怖が頭をよぎる。

転職してもうまくいかなかったらどうしよう。FIREしたものの、資産が尽きてしまったらどうしよう。そういった「不安定への恐怖」が根底にあるのか無意識のうちに足を止めるのだ。

これは、若い頃に「就職できなければ人生終わり」と刷り込まれてきた世代特有の心理的ブロックではないだろうか。おそらく同世代の多くが同様の不安を抱えているのではないかと思う。

④「ありがたさ」と「諦め」のはざまで

私が今の職場に就職できたのは、間違いなく運である。それゆえに、「今の職場があるだけでありがたい」という感覚がどこかに根づいている。その一方で、「このままで良いのか」「もっと自分に合った環境があるのでは」と考える自分もいる。

しかし、そう思ってもすぐには動けない。氷河期世代にとって、職を変えるという行為はかつて求めていた「安定を手放すリスク」であるからだ。

結局のところ、職場に不満があっても「簡単には辞められない」。それが、就職氷河期世代として社会に出た者たちに共通する、ある種の「葛藤」であると感じている。

コメント

タイトルとURLをコピーしました