吃音で困った職場の実話3選 名前が言えない

発達グレーと向き合う

以前の記事「吃音と会社員生活」でも書いたが、私には吃音、いわゆる「どもり」の症状がある。
特に困るのが「難発(なんぱつ)」と呼ばれるタイプの吃音である。

「連発(あ、あ、あの……)」であれば、まだ「どもっている」と理解されやすい。
しかし「難発」は、言葉自体が出てこず、会話のスタートすら切れない、或いは会話がストップしてしまう。そのため非常に厄介である。

私の場合、「と」「な」「ま」で始まる言葉に詰まりやすく、普段は問題なく話せていても、突然、言葉が出てこなくなる。緊張や心理的要因だけでなく、環境やタイミングによっても発症するように思う。しかし、はっきりとした原因は分かっていない。

エピソード①:部長の名前が言えなかった電話対応

ある日、以前の部署で役所から電話がかかってきた。電力会社の仕事は役所との協力が不可欠であり、失礼のない対応が求められる場面であった。

私はたまたまその電話を取ってしまい、「もしもし」と普通に会話を始めた。はじめはスムーズに会話が進み、特に問題はなかったと思う。

しかし、担当者から「部署の部長のお名前を教えてください」と尋ねられた瞬間、私の吃音が突如発症した。
部長の名字は「と」で始まる――私にとって難発が発生しやすい文字であった。

私:「部長の名前はですね、と・と……と……。えっと……とっと……と……」

このような状態が約1分間続いた。頭では部長の名前がはっきり浮かんでいるのに、口からは詰まって言葉が出てこない。ようやく言えたときには、手に汗をかいていた。

会社員であれば、普通は直属の上司の名前を覚えているものである。そのため、相手方は、「この人は自分の直属の上司の名前すらも分からないのか」と不審に思ったに違いない。

このように、吃音の難発は突然訪れる。自分でも予測できず、対処も難しいのが現実である。
特に言い換えの効かない個人名を電話で聞かれたときの難発は冷や汗ものだ。

エピソード②:個人名が言えずメモで伝える日常

職場では、庶務的な業務を任されることが多いため、電話の取次ぎや伝言、確認依頼などで他人の名前を口にする機会が多い。しかし、そのような場面では吃音が出てしまうことが多い

たとえば、

  • 「○○さん、電話ですよ」
  • 「これ、○○課長へ確認してもらえますか?」
  • 「さっきの連絡は誰から?」

このような場面で言葉が詰まり、どうしても名前が出てこないことがある。
そのとき私は、メモ用紙に名前を書いて渡すという対応をとる。

事情を知らない同僚からは「ふざけているのか?」と思われることもあるだろう。
また、部内の他のグループの人からは「まともに会話すらできない非常識な人」と思われていると感じることもある。
そのような中、私は思い切って同じグループのメンバーだけには吃音の症状があることを正直に伝えた。

理解してもらえるかは分からないが、せめて「ふざけているわけではない」とだけでも伝わって欲しいと思ったからである。

エピソード③:「トイレ」が言えず「便所」に言い換える私

私にとって「トイレ」という単語は難発が出やすい言葉である。
そのため、無意識のうちに「便所」という言葉を使うことが多くなっていた。

しかし、「便所」という表現はあまり上品ではなく、上司から「便所というな。トイレと言え」と注意されたこともある。

自分でも「便所」という言い回しがやや乱暴であることは理解している。
しかし、「と」で始まる「トイレ」が言えないのだ。

もしかしたら「お手洗い」や「おトイレ」のほうが言いやすいのかもしれない。
とはいえ、丁寧な言葉ほど言い回しが長く、これもまた口がうまく回らないように感じてしまう。

おわりに

吃音のある会社員生活では、誤解を招く場面が少なくないと感じる。今回紹介したようなエピソードはごく一部であり、職場内外での吃音にまつわる体験はまだまだある。
今後も、備忘録を兼ねて、吃音に関するリアルな出来事を記事にしていきたいと考えている。

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